【「野球ごっこ」から考える知的障害児のスポーツ】

 くまさん横浜では特に「運動療育」と規定したプログラムは用意していないのですが、子供達の活動ですから、自然に「体を動かす活動」を多く採用しています。特に今の時期、次第に暖かくなってくると、子供達もお外に出たくてウズウズし始めます(笑)。お天気の良い日はできるだけカラダを動かすことにしています。

 最近、くまさんの子供達の間では「野球ごっこ」がブームです。「ごっこ」とつくのは、ルールに厳格に従った「野球という競技」をやるわけではなく、「投げる」「打つ」「走る」などの一部をマネする活動だからです。が、子どもたちはそんなに気にせず個々の動作を楽しんでいます。

 それでも、中には「ストライク/ボール」の区別、「打ったら一塁に向かって走る」などを理解できることもいます。また、ボールを「ストライクゾーン」という「抽象的な概念で決められた空間めがけて投げる」ことは、少し高度な理解が必要になるのですが、それができる子もいます。
 
 障がいの観点から考えた時、実は「スポーツ」は知的障害児・者にとって参加のハードルが高い活動です。なぜなら知的障害児・者にとっては「ルール」という「目に見えない抽象概念」の理解が難しいからです(だから実はパラリンピック参加者の大半が「身体障害者」で、「知的障害者」はほとんどいいません)。ですから、こうした「運動」の活動は、実は体を動かし鍛えるだけでなく「抽象思考の訓練」という「脳トレ」の側面も持つのです。

 そう考えて周囲を見渡すと、私達の社会はさまざまな「目に見えないルール」が決まっており、それによって社会が円滑に動いています。大人になって社会に参加するということは、そのルールを一つ一つ理解し覚え、それに従って他の人たちと共同で何かの作業をしていくことにほかなりません。しかしこのことは障害の有無にかかわらず、すべての子供達が大人になるために身につけるべき「教育」の目標の一つです。

 くまさん横浜には、生まれながらに障害を持った子供達が毎日通ってきます。彼らが大人になった時に、少しでもその「生きづらさ」が減らせるように、くまさんの活動でそうした練習ができるように、野球の活動一つでも、職員たちはこんなことを考えながら子供たちと活動しています(^_^)。


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